『師走六日…南の地からの電話』
「すみません、ちょっとうちのサモエドのことでお聞きします…」
サモエドを家族にするのが夢だった女性が、念願かなってこの夏に男の子を、探し当てたブリーダーさんから譲ってもらったとの事だった。
「サモエドを知ったのはあきる野の動物王国、そこの石川百友坊なんです。高校生だった私はすっかり白くて優しい犬たちが気に入っちゃいました。いつか大人になったら…と思ってました」
結婚されて子供もふたり、ご主人を説得されてのサモエド生活だった。毎日がサモっ子に振り回されていたが、最近、ようやく落ち着いて生活にリズムが出てきました、と声が弾んでいた。
「それで質問なんですが、私がサモエドに興味を持ったきっかけを話すと、この子には石川さんのとこのマロの血が流れてますよ、子孫になります」
と言われ、購入を決断する最後の鍵が外れたそうです。
「あきる野では生きてるマロには会えませんでしたが。写真や掲示してあるマロへの言葉や記録で、名前は記憶してました。そんな可能性はあるのでしょうか」
そう言って子サモの登録書に記載されてるデータが受話器を通して私の耳に届いた。私は手元で分厚い記録簿を開き、マロの結婚の記録を見ながら想像した。
「はいっ、もう昔のこと、長い期間が経過してるので確かなことは言えませんが、マロの息子は何匹か父親になってます。我が家に跡継ぎとして残ったカザフの子も、その代々の跡継ぎたちの子も各地で繁殖に使われてます。十分にマロの一族の可能性はあると思います…」
「そうなんですね、はいっ、うちの子にマロの流れを感じながら可愛がっていきます。ありがとうございました」
私の見えないところで、マロの魂は永遠の道を展開してるのかも知れない。そう考えると嬉しくなり、18年前の北海道への撤退の時に、北の地へマロの遺灰を持ち帰り、みんなと一緒に大地に還した塚にあんパンをそっと置いた。