日記
2008年 2月 20日 (水) 23:24


ある再会、、、。
by ubu

 輝きの力を増してきた斜の陽光がまぶしい朝、いかにも雪に強そうなグレーのピックアップ車が、町道から我が家への道に入ってきた。
 
 「カボス、チロル、アリーナ、ハコ、エニセイ、パー子、みんなハウス!!」

 あわててフリーになっていた犬たちの名前を連呼し、それぞれの小屋に繋ぐ。

 あたたかそうな上着の前を開けたまま、おじさんが車から降り、私の書斎であり、今はゴミの山をかきわけて、かろうじてパソコンに辿り着くことができる部屋の外壁面に近づいて行った。右手に小さな器具を持ち、もう片方の手はボールペンを握っていた。
 おじさんは、雪の山に片足を乗せ、メーターを確認すると器具に入力し、出て来た用紙に数字を書き留めると私に渡した。
 
 受け取った記録紙を玄関に置いて再び外に出ると、おじさんはメーターから3メートルほど離れた所にあった犬小屋の前で腰をおろし、なにやら小さな声で犬に話し掛けていた。
 私はゆっくり近づいた。
 おじさんの言葉が聞こえてきた。

 「良かったね、ほんとに、、、。元気で帰ってきたんだ、良かった、良かった、、、」

 小屋に繋がれていた柴犬のミゾレは、細かく尾を振り、軽く耳を後ろに倒しておじさんの声を聞いていた。

 「あっ、その子、ミゾレって言います。ひ孫までいるお婆ちゃんなんですよ、、、」

 私が説明しようとした時だった、おじさんは笑顔で私に言った。

 「あの子でしょ、以前、町の中でみんなに餌を貰っていた、あのミゾレでしょ。家でもやってたんだ、可愛かったからね!」
 
 私は思い出した。
 
 もう8年ぐらい前のことだった。ミゾレは牧場の敷地内を流れる当幌川に釣りに来た人間の後を追い、川向こうにあるゴルフの練習場まで行ってしまった。しばらくうろうろしえいるうちに、練習に来ていた人に迷い犬と思われ、車に乗せられて町に連れて行かれた。
 その人は、ミゾレが嬉しそうにしているところを見て、飼われている家は近くにあると思い、自力で帰れるだろうと、そのまま解放してしまった。
 
 私と女房は、あちらこちら探し回り、1週間後だったと思うが、新聞に折り込むチラシで「ミゾレ行方不明」の告知をした。
 それが配達された日、朝から我が家の電話が鳴りっぱなしになった。
 
 「たぶんその犬だと思うけど、いつも朝8時にうちに来るよ」
 
 「あっ、いしかわさん?チラシの犬だけどさ〜、あれに似たのがいつも昼頃、餌もらいに事務所に来るんだは、、、」

 「その犬って赤い首輪をしてるっしょ、夕方、玄関に来ているよ、この何日か、、、」
 
 ミゾレは放された所を中心に、10数戸のお宅を時間差で訪問し、それぞれの家で美味しいものをもらっていた。

 「たぶん午後3時頃、必ずうちに来るよ、待ってたら捕まえられるよ、人間に慣れてるから、、」

 うん、確かにミゾレは人間が大好きである。それに飼い主の私に捕まらないようでは私の立場がない、、、などと余計なことを考えたが、とにかく皆さんの善意に感謝しつつ、無事にミゾレは我が家に戻った。行方不明になる前よりも、確実に体重が増えた体つきだった。

 検針のおじさんは、あの時、ミゾレを可愛がってくれた方のひとりだった。
 きっと美味しいものをいっぱい貰ったのだろう、その記憶がミゾレに蘇ってきたのか、久しぶりの再会にもかかわらず、ミゾレの太い身体が喜びでくねり始めた。

 「あの時はたいへん御世話になりました。ミゾレ、東京でも活躍してきました、子犬やウコッケイを守る、いい番犬だったんですよ、人間は大好きでした、、、」

 「そうかい、心配してたんだ、王国、厳しかったみたいだから。良かったよ元気で帰って、、、」

 急に胸が熱くなった。
 
 私はおじさんに背を向け、青空を見上げた。
 鼻の奥で痛みに似た刺激が始まっていた。



T R A C K B A C K

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