2003年6月
 1月に沖縄を出た桜前線が、この北の果てに到着したのは5月の末だった。 昨年よりも2週間は遅い、それでもTVは平年並みと伝えていた。
 
 誘われるように、私は知床に向かって車を走らせた。1本の桜が目に飛び込んできた。
 まだ雪を残す武佐岳を背景に、濃いピンクの花をまとったその木は、芽吹かない周囲の木を見下ろすように、ひときわ大きく、そして誇らし気に立っていた。

 一瞬の風が花びらを散らした。
 舞う花びらは「はかなさ」ではなく、夏に向かう準備が整ったという力強さを感じさせてくれた。

 日本でもっとも遅い春は、今、最盛期を迎え、陰に初夏を秘めている。
〈津田 典秀〉







ムツゴロウ動物王国「いしかわさんの命がいっぱい」

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