日記
2008年 2月 18日 (月) 18:15


知床の白い犬
by ubu

 強い北風で根室海峡は白波が一面で砕け、先日、オホーツク側から岬を越えて流れ込んだ流氷の姿は確認できなかった。
 標津の先で斜里への道から分かれ、知床半島の右側、羅臼に向けて走ると、やがて山々から吹き下ろしてくる強い風に雪が混じり、時として視界は真っ白、ついブレーキに乗せている足に力が入りそうになる。
 しかし、やたらと急ブレーキをかけるわけにはいかない、絶えずミラーで後続車、そして前を走る車のライトに気を付け、追突を避けねばならない。
 幸い、悪天候のこの日は、日曜日にもかかわらずめったに車に出会わなかった。

 峰浜で本道から左に道を変える。ますます吹雪は酷くなり、久しぶりに緊張しながらハンドルを握りつづけた。どうも4年のブランクは、吹雪き道の感覚を鈍らせているらしい。
 私ひとりなら事故責任ならぬ自己責任であきらめもつくが、神奈川からの友人が助手席にいるとなれば、これは慎重にならざるをえない。言葉ではのんびりと語りながらも、端から見た私の心と視線は真剣だったろう。

 やがて、すっぽりと雪に包まれたAさんの家に着いた。踏み固められたアプローチに飛ばされてきた雪が重なり、長靴の上まで達する所があった。
 奥さんが笑顔で登場した。
 
 「こんにちは、あの子たち、あっち側にいますよ、、、」

 私と友人は円形の建物の左側を通り、玄関の反対側に向った。風は強く、真っ白な世界、視界は10メートルほどだった。

 とその時、建物から20メートルほど離れた雪原で動くふたつの生きものの姿がかろうじて見えた。声も聞こえた。
 2匹は繋がれている長いロープを引きちぎらんばかりに力を入れ、私たちに跳びついて挨拶をしようとしていた。

 「レヴン、グワイ、久しぶり、元気だね!」

 私はレヴンの前足を胸に受け、強烈なくちづけをもらいながら言った。グワイは吠え、ヤキモチをやき、そして尾を振っていた。

 2匹は1才違いの姉弟だった。父親はカザフ、母親はアラル、、、。
 ともにあきる野で死んだカップルである。年齢的にはまだまだと思っていた、従って私の胸の中では今も「夭折」の思いがある、、、。

 雪の中で、風雪に負けずに、2匹の喜ぶ声に負けずに、私たちはAさんご夫妻と話を続けた。
 
 そして家の中へ。
 もちろんレヴンとグワイも暖かいリビングへ入った。
 東京に行く前まで、女房と何度かお邪魔をしていた。懐かしいステンドグラス、そして犬の足型がきらめくガラス作品が窓際に飾られていた。2匹の両親、そして祖父になるマロのものもあるのかも知れない、、、。
 
 Aさんは素晴らしい内容のホームページを開かれている。そこには最初のサモエドであるハイダの記録、そしてレヴンやグワイたちの積み重ねている今の時間が掲載されている。
 東京で疲れた時、私はレヴンたちの写真を眺めた。ほっとできる姿が、犬の本質的な幸せが、Aさんご夫妻の手で、心で、切り取られ、楽しいキャプションとともに載せられていた。

 ひとときの時間と熱いコーヒーをいただき、私と友人は、少し吹雪の収まった知床を後にした。
 「今度は犬たちを連れてきます、、、」
 そう言って車に向おうとした時、窓からレヴンが私の後を追って飛び出ようとしてAさんに止められた。
 
 帰り道、海は相変わらず白く叫び、厳しい土地で真直ぐに伸びることは叶わず、不思議な形に曲がりくねったダケカンバの太い枝に、荒天を避けた1羽のオオワシがいた。

 



T R A C K B A C K

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