日記
2007年 1月 15日 (月) 10:04


コボからの『ありがとう』
by ubu

 低酸素症で生まれ、脳性マヒとなったサモエドのコボも、この間、無事に1歳を迎えた。
 生後2週間ほどで異常に気付いた。他の子犬たちが、前足、後ろ足をしっかり使ってミルクを飲んでいるのに、コボは口だけで吸い付き、手で乳房をもんだり、後ろ足を突っ張って乳首へ前進しようとする動きがなかった。まるでアザラシの飲み方である(アザラシでも前脚は使う)。

 私は誕生時を振り返った。
 第一子は心肺停止状態で出て来た。母親のラーナの陣痛が弱く、破水してから私が引っぱり出すまでに1時間以上かかっていた。
 すでに舌の色は白くなりかかっていた。まずいことに胎盤の早期剥離もあったようだ。それでもあきらめられず、私は心臓マッサージ、マウス ツウ マウス等で蘇生を計った。
 普通は15分で変化がなければあきらめる。しかし、その時はわざわざ駆けつけてくれた獣医の卵も真剣な目で見ていたので、つい時間を忘れ、蘇生術を説明しながら45分も経過しただろうか、その子犬はしっかりとした呼吸を始め、心音も確かになった。
 
 その子がアザラシ的な動きの子、コボだった。
 幸い呼吸中枢、食欲中枢に障害はなく、問題は運動機能だけだった。他の子犬が立ち、歩いていも、コボはもがいていた。
 仲間が名前を付けてくれた、最後は立ち上がれるようにと、「起き上がりこぼし」からとって『コボ』となった。
 生後1ヶ月と少しで、ふらつきながらも人間が支えてあげれば立つことができるようになった。何とか歩かせる訓練にと、私たちはアイデアを出し合い、車椅子を作ることにした。
 ああでもない、こうでもないと試作をしている時に、待ってられないとばかり、コボはふらつきながらも前進ができるようになった。
 
 それからは、女房を中心に人間が手と心を添えてリハビリを続けた。素晴らしいことに、コボは大小便を催すと、独特の声で人間を呼んだ。他の健常な子犬たちは、自主的にトイレと決めたところまで移動して済ましている。コボも寝ている場所で漏らすのが耐えられない。だから夜中でも人間を呼んだ。
 その声は、横のベッドで爆睡している私や女房、キョウタくんやあべクンを起こすのに十分な必死さがあった。

 やがて、コボは前進ができるようになった。よくバタンと倒れるので女房は首と頭を保護するヘッドギアを作った。これで、かなり安心ができた。
 そして離乳食から普通の餌に、、、。
 コボの食欲は素晴らしかった。そして、めったに下痢をしない介護士孝行の犬だった。
 
 今でも、日に何回か発作のような動きを見せる。前進がエビ反りになり、うめき声をあげるのだ。
 数ヶ月前、脳性マヒの方が来られた。コボのことを話していると、

 「筋肉が私の心の動きに関わらず、勝手に硬直することがあるんです。その時の痛みは、健常者には想像ができないでしょうね、本当に辛いんですよ、、、」

 そうおっしゃっていた。
 コボも確かに、全身を反らし硬直させて騒いでいる。その時は大声をかけ、身体が前屈みになるようにしてあげると治まった。

 そんな事を重ねながら、コボは1歳を迎えた。
 まだできないことが実はある。
 4本足で長く立ち止まることと、バックである。
 外で遊んでいる時に水を飲みたくなる。コボ用に高くした水桶は用意してあるが、その前で立ち止まって飲むことが難しい。そんな時、コボは周囲を見渡して身体を支えてくれる人間を捜す。
 外で昼寝をすることも難しい。部屋の中と違い、様々な刺激がある外界では、つい気持ちが高ぶり、のんびり横になることができない。

 昨日のことだった。
 王国で産まれるサモエドの子犬を予約されている埼玉のご夫妻が、いつものように王国の犬たちと遊ばれていた。
 コボがよろよろ足取りで若く美しい奥さんに近づいて行った。
 奥さんはさっと両手を出し、コボを受け止め、しばらく両手で触って下さった。
 ゆっくりとしたリズムで素晴らしい触り方をされると犬は穏やかになる。コボは眠くなってきた。身体が崩れ落ち、珍しくコンクリートの上で横になった。その後も奥さんのゆっくりとしたグルーミングが続き、コボの瞳は閉じた。
 奥さんは、寄って来たタングを膝に抱き、ずーっとコボを見つめていた。

 今年の課題であった長い日光浴が、見事に実現していた。
 
 「ありがとうございます、コボには最高の時間だったと思います・・」

 私は、ただただ御礼の心を伝えるだけである。
 ズボンが汚れるのにも関わらず、地べたにべったりと座れるご夫妻。
 私は安心してサモエドの子犬を託すことができる。
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 <写真説明>
 『お姉ちゃん、ありがとう。ボク、外で昼寝ができたよ。アッ、まぶたが落ちて来た、もう少し寝ようかな、側にいていね、、、』



T R A C K B A C K

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