日記
2007年 1月 9日 (火) 22:05


アイコンタクト
by ubu

 おかしくて、そして悲しく、せつない話を書こう。

 ある方が教えてくれた。
 犬が飼い主に背を向けて座ったり寝ていると、それは飼い主に心を寄せていない証拠だと専門家に言われたとのこと。
 その理由とは、犬との間にアイコンタクトができていない、取られていない、、、からだそうだ。
 
 先日、実際に現場に出会った。
 王国に来られた方に、ラブラドールのセンが嬉しそうに尾を振りながら寄って行き、いつものように背と尻をお客さんにくっつけて座ろうとした。
 
 「あらっ、何よこの犬、私を敵と思っているみたい。ねえ、目を見せなさいよ!」

 中年の女性は、センから離れると、正面に回り、センの顔を覗き込もうとしていた。
 困惑したセンは、尾を振る回数が減り、やがて他の客のほうに去って行った。
 女性は、同伴の友人らしき方に説明をしていた。

 「犬はね、しっかり目で会話をしなければだめなのよ。アイコンタクトと言ってね、リーダーたる飼い主との視線の会話が大切なの。あの子はしつけが出来てないわね、人間の私を見ようとしなかった。うちの〇〇ちゃんは私やお客さんが近くに行けば、絶対に目をそらさないわよ、、、」

 センの悪口を言われてはだまっておけない。
 私は最高の笑顔とともに二人の女性に近づき、声をかけた。
 
 「どんな小型愛玩種をお飼いですか、シーズーですか、トイプードル、それともパグか何かを、、、」

 「えっ、うちの〇〇ちゃんはパグですけど、どうして小型犬てわかったの?」
 
 「何となくお顔が似ているので、、、」
 などとは口が裂けても言えない。
 
 私は次のように続けた。

 「飼い主さんの目をしっかり見つめてくれると聞こえたもので、だったらおそらく小型愛玩種だと、、、」

 「あらっ、それ以外の子は人間の目を見ないの、アイコンタクトを取らなくてもいいの?」

 「もちろんです、と言うか、中大型犬は、見つめられるとストレス、プレッシャーが高まり、時にはうなったり、吠えたり、さらには咬む犬もいますよ」

 「でもそれじゃ、大切なアイコンタクトが、、、」

 「アイコンタクトなどという面倒なことをしなくても、彼らは人間の声、動き、指先の変化だけでも指示を理解し、情況を判断できるんです。牧羊犬がいちいち牧童の指示をアイコンタクトで確認するために駆け寄っていたら、夜になっても仕事は終わらないと思いますよ。だから彼らは口笛ひとつで自在に動くのです」

 「そりゃそウだけど、でも、私の友だちのパグも、みんな飼い主や私たちをしっかり見つめてくれるわよ、、、」

 「でしょう、それは愛玩種というところにヒントがあります。彼らは甘やかされるのが仕事だったのです。それを成功させるために、あのウルウル光線を獲得したのです。あの瞳の光線で見つめられたら、つい何かをしてあげたくなり、太ると判っていてもケーキをひとかえらあげてしまいます。彼らの作戦勝ちです」

 これで、パグを長年可愛がっている女性は、少し納得したようだった。
 周囲にお客さんが集って来ていたので、私は大きな声で続けた。内容は次のようになった。
「いっぽう、実業をさせられてきた犬種は、飼い主のささいな仕草で次にすべきことを理解し、時には飼い主が不在でも自分で判断して行動しなければならなかったんです。アイコンタクトは、犬の側からチラリと見れば済みますし、見つめ合うなどと言うのは時間の無駄、不合理だったのです」

 「そうだよねー。家のセターはハンティングをしていたけれど、猟場に出ると、オレのことなんか見ちゃいねえ、耳だけでオレの言う事を聞いていた。でもしっかり猟の手助けはしてくれてたよ、利口な子だった、、。あっ、昔の犬だよ、今は鉄砲はやめた」

 3歳ぐらいの可愛い女の子の手を握った70代ほどの方が体験を語り、私を応援してくれた。

 どうか、今、犬の世界に感染し始めている『アイコンタクト』から、飼い主さんは心を解放してもらいたい。
 試しに、初めて会った柴犬、秋田犬などの正面に立ち、瞳を見つめて近づいてみてほしい。あの人間大好きなラブラドールでさえ目をそらす。ましてや日本犬はその緊張に耐えられない、伏し目になるか、警戒の心で凝視してワンワンと啼くだろう。
 犬に嫌われたいのなら、アイコンタクトの濫用はとても良い手法だと思う。平和で仲良し、ほっとする雰囲気をお望みなら、ぜひ、目を見つめなくてもすむ斜め横などから近づいて友好条約を締結してほしい。
 
 再び、センが女性に寄って行った。
 センは背をパグの女性に擦り付け、身体をあずけて腰を下ろした。

 「さすが、犬を飼われている方ですね。セン、最高の挨拶をしています。これは犬が大好きな方への仕草です!」

 女性はセンと一度も目を合わせることなく、ちょっぴり誇らし気であり、優しくなでる手でセンと会話を続けていた。
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  <写真説明>
 ツナとヨシ、生後3ヶ月の頃である。
 サークルに入れられ、ウルウルではない視線で私に訴えてきた。
 半分はあきらめも入っているせつない視線は、
 『出して、、、。」
 と語っていた。



T R A C K B A C K

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